デンマークの日本人はここ1〜2年の間一変したとの声が聞かれます。大使館におんぶに抱っこの時代から乳離れしたとも表現できるでしょう。前折田大使、諸大使館員の方々のサポートのもとで独立第一歩を踏み出したのですが、今回内藤新大使をお迎えして、私たちの少年期を支えてくださるであろう方のプロフィールを探ってみました。信任状奉呈式を6月13日に終えられたばかりのお忙しい中、インタビューに応じてくださいました。
緑:
デンマ−クに来られて、ちょうど1ヶ月くらいでしょうか?
大使:
そうですね、ちょうど、先月の今日来ましたから。
緑:
この短い期間のお忙しい中、日本人会のソフトボ−ル大会に出席していただき、またバットまで振っていただ いて、さらに今日のインタビューにも、応えていただき、ほんとうにありがとうございます。
この短い間にこれだけの事をしていただいて、とても印象づけられています。ということは、これから何年かいらっしゃる間に、いろんないい発展があると、期待もしているところです。
大使:
ちょうどタイミングよく着任することができて、いろいろな行事が、ひと月の間に、凝縮されてこなせたも のですから、これからひと休みできるかなと思ってるところです(笑)。
緑:
そうですよね。ところで、デンマークは今回が初めてでいらっしゃいますか?
大使:
実質的にはそうですね。でも、16年くらい前になると思いますが、当時の安倍外務大臣のお供で、ベオグラ ードで会議があったときに、ここに立ち寄ったというくらいでしょうか。その時も、天気がよかったですね。ですから、今まで、デンマークというのは、天気がよくて、水が青くて、非常にきれいな思い出しか、まだないですね。
緑:
98年にこちらに天皇陛下がおみえになりましたが、2000年に陛下がスウェーデンに行かれた時に、お供をさ れたとうかがっていますが、その時も北欧はいいなあ、と思われたんでしょうか?
大使:
もちろんそうでしたね。先遣隊というのが3月にありまして、その時はストックホルムも海が凍っていまして、寒かったですが、実際両陛下が来られたのは5月の後半でしたから、とてもいいタイミングで、スウェーデンでは王室を挙げての歓迎をいただいて、壮麗な訪問という形になりました。やはり王室のある国っていうのは、華やかさがありますよね。
そのときにその王室行事の華やかさを味合わせていただいて、またこちらに来て信任状奉呈式がありまして、その時は、こちらの衛兵が特別に赤の衣装を着てくれるんですね。
緑:
そうですね。
大使:
あとで写真をいただきました。もちろん、私はちゃんと見ていましたが、中には緊張して何が起こっているかわからないまま終わってしまう大使もいるらしいですけれど、幸いいっしょにこちらのお付きの方が来られるんですが、その方が馬車の中から町の案内をしてくださったりして、、、。
緑:
そうして、緊張をほぐしてくださるんですね。
大使:
そして、女王陛下とお目にかかった時は、もちろん、公式部分は英語で天皇陛下のお言葉などをお伝えしたんですが、そのあと、女王陛下ご夫妻に我々夫婦と館員とがお会いいただきました。館員の紹介は英語でやりまして、かつ館員のうちの二人は、デンマ−ク語の専門家ですと申し上げたら、女王陛下が非常に喜ばれて、デンマ−ク語で話し掛けられたりしました。
そのあと、館員は退いて、女王陛下と王配殿下、そして私たち夫妻の4人だけで非公式のお話という段階になりました。
私がフランスに勤務していたということをご承知だったからでしょうけど、王配殿下が最初からフランス語で 話をされて、家内もちょうどフランス語の方が楽なものですから、女王陛下もフランス語でお話になられて、それは、驚きでした。でも、家内も含めた4人の懇談ができあがって、打ち解けた雰囲気にしていただけたことが、ありがたかったですね。
緑:
非常にいい第一印象を持っていただけた訳ですね。
大使:
そうですね。壮麗なセットアップの中に立つと、とかく緊張しがちですから。ただ、幸いに私は以前に儀典長という仕事をしていまして、日本の国内では天皇陛下のおそばでお仕えすることが多かったものですから、あがることがなくて済んだのではないでしょうか。
あと、外国のお客さまをお迎えする役割もありますから、いわゆる国賓というお客さまで、一番最近はノルウェーの国王王妃両陛下をお迎えして、長崎までお供しましたし、去年は中国の首相とか、イランの大統領とか、そうい方々とも、同じ自動車の中でいっしょに親しくおつき合いさせていただいているもので、そういう意味では、女王陛下だからしゃちほこばる、ということもなく、日本国の代表としておつき合いができる、というのは、今までの経験のおかげだと思っています。
緑:
その大使の今までのお仕事を拝見させていただいたのですが、イラン、カンボジア、フランス、そしてジュネーブの国際機関代表部にもいらして、それぞれの場所における日本の外交官としての役割というかお仕事の内容、と言うものがある程度想像できるようにも思うのですが、想像にすぎないかもしれませんが、そのあたりでデンマークはどういう性格のお仕事になってくるんでしょうか?
大使:
外交官と一口に言っても、ポジションということがありますから、それに応じて視野がまず違いますね。やはり外務省の仕事の究極は大使ですから、大使と言う意味で言いますと、すでに私はカンボジアで大使をしていたんですが、カンボジアは、今や人口は1千万人を越えただろうと思われる国ですが、そこでは経済協力もさることながら、政治を含めて日本というのは非常に重要な存在ですし、大使はただの傍観者ではなくて、その国のいろいろな動きの中に、一種のプレイヤーとして参加せざるを得ない立場にいたんです。国全体
をトータルとして把握するということが、大切でしたね。
カンボジアのような国はリーダーが国を動かしているところがありますから、そのリーダーと付き合っていれば、リ−ダ−が何をしたいと思っているかによって、国がどういうふうに動くかっていうのは、だいたい見当がつくという、経験をしてきました。
今度は、こちらに来て、こちらは500万ちょっとの人口ではありますが、その500万人のひとり一人がみんな一家言を持っておられて、女王陛下もおられますが、国の政治を決めておられるわけではないし、首相はいても連立ですし、国民投票もありますしね。その投票率は高いですし、デモクラシーの極地が機能している国だと思います。500万人のひとり一人が国を動かしている。ですからカンボジアとは違って、こちらはひとり一人の集合体としての国だなっていう印象が非常に強いです。そういう国に大使としている、というのは向こうからもこちらを日本の代表として見ているんだな、ということを、私は常日頃意識していますけれども、同時に私もこの国を理解するにあたって、そういうふうにできあがっている国なんだということを、考えていますから、これもまたひとつの新しい体験になると思っています。
そのひとり一人500万人と知り合いになることはとてもできませんが、全体としてはこういうふうになっているのであろうということを推測を交えて、これから理解するようになっていくと思います。国として捉えるということが、大使としての一番の醍醐味とも言えるかと思っているのですが。
緑:
そして国として捉えられる時に、デンマークだと500万人と言わないまでも、いろんなところからのインパルスが入ってくる。ある意味では、もっと多岐に渡った、より大変なお仕事になるんでしょうか?
大使:
微妙な部分を追って行かなければならないと思っています。一番の課題であるEUとの関係にしても、それぞれいろいろな側面をひとつ一つこの国の人が、いいことと悪いこととを比較衡量をして、判断して関係を前へと築いていっている訳ですから、そういう人達の考え方を捉えるというのは、こちらも微細に眺めて行かなければという気がします。
緑:
大変なお仕事だと思います。近代化の波も押し寄せてきますしね。
大使:
そうですね。次第に精緻になっていくということなんですよね。近代化というのは。もちろん、われわれはコンピュ−タではない訳ですから、人間の特性である、勘で捉えるって言う事もある程度は必要ですからね。その勘を養うために外務省で職業外交官としてこの30何年やってきたのが取り柄になるのかなと思います。
緑:
はい、なんとなくわかってきました。大使が今までにいろんなところでさまざまなご経験をなさってきたことが逆に言うとこのように非常に微妙な所におられる所以となっているのですね。
大使:
そうですね、いままでの職業生活で培われた体験を、大使と言う究極の職において、充分使えるのではないかという気持ちを持っています。幸い、一度カンボジアで大使と言う仕事をやっていたと言う事もありまして、そう言う意味で、これからじっくりとこの国と取り組んでいきたいと思っています。
緑:
お話をうかがって、ますますこの先、楽しみになってまいります。
大使:
まあ、今まで申し上げてきたことは、どちらかと言うと、国と国との間の役割なんですが、同時に、在留邦人の皆様に対しても、やはり日本国政府の代表として、責任を持っている訳です。責任と言っても、治安はこの国の警察が守っているのですが、いろいろな意味で言う「利益」について在外公館としての責任があるわけです。今まで申し上げたデンマーク国との関係というのとは別に、在留邦人の方との関係というのは、大使館の重要な機能ですから、その点では、まさしくこれから、特にこの在留邦人の代表の組織体である日本人会とのおつき合いを大切にして行きたいと思っています。
もちろん、領事が最前線にいる訳ですが、領事ひとりではなかなか皆さんとの連絡ひとつとっても、周知しきれない点があるでしょうから、日本人会のネットワークを通じて、在留邦人の方といい関係を保つ事が重要になります。私の方から日本人会と大使館との関係を密にして行くように、努力いたしますが、日本人会のほうでもよろしくお願いしたいと思います。
緑:
はい。心強いお言葉ありがとうございます。
その日本人会ですが、そうして各地にいらして、各地でいろんな性格の日本人会があったのではないでしょうか?
大使:
そうですね。例えば、私がイランにいた時はイランイラク戦争の真っただ中でしたから、それこそ、そこに住んでいる日本人は、命がけですよね。ミサイルが空から降ってくる訳ですから。ミサイルは、爆弾とは違いますから、建物ひとつ完全に無くなる程強烈です。そう言う中での日本人会は、一種の戦友のような関係でしてね(笑)。
それから、カンボジアでもそれは、ちょうど4年前がそうでしたように、内戦になって、日本人の方がひとり、砲弾の破片で亡くなられた、というようなこともありました。
その点、こちらは平和ですから。まあ領事の仕事もスリの被害とかね(笑)、命まで取ろうって言う話は幸いないですから。
しかし、この平和な国でもできるだけ生活をエンジョイしていただく環境は大切にしなければなりません。
それから、もっとポジティブに言えば、今度の参議院選挙では、大使館で投票を受け付けておりますので、是非みなさんも投票にいらしていただいて、国政に参加していただきたいですね。まあ、大いに大使館を利用していただいて、我々も日本人会のネットワークに期待するところがありますので、互いによろしくおねがいします。
緑:
ありがとうございます。相互間での進展が持てると思いますので、日本人会でお役に立てることがありましたら、どしどしおっしゃってください。
これから、日本人会とも関係を密にしていただけると言う事で、大変心強いのですが、ここで、大使のお人柄に触れさせていただきたいのですが、何かご趣味などは?テニスがお得意でいらっしゃるとうかがいましたが。
大使:
ええそうですね、テニスは幸いに相手が見つかりまして、週末ごとにやらせていただいてます。それで、もうさっそくクラブの会員にもなりました。テニスはやはり地元の人とできるものですから、交流もできて。まあ、趣味と言えばそんなものでしょうか。もちろん、旅行も好きですので、まずはデンマークの国内を走り回って、と思っております。幸いこの夏が好天なので、少し休みになれば、と思っているところです。
緑:
先だって言っておられましたよね、週末にはバスを利用されているとか。それが、いずれはS電車になって、とだんだん広がって行くのでしょうか?
大使:
もちろん、ハイウェイもある訳ですから、車もありますがね。やはり、一般の人達といっしょに動くというのは、その国の空気を知る意味で、そして感じると言う点で、やっぱり住んでいると言う事が大使の値うちですから、旅行者じゃないですからね。
またいろいろな行事、今はちょうどジャズフェスティバルですし、そういうものを通じて、地元の人と隣り合わせになるとか、そう言うこともひとつの機会ですよね。まあ、こちらは例えばパーティーなんかでも別に紹介されるまでもなく、向こうから「日本の大使でいらっしゃいますか」みたいに話が進展して行きますし、こちらの人はそう言う意味では非常にオープンだし、あんまり勿体つけないという感じを受けますね。
緑:
確かにそうですね。
大使:
大臣なんかでもストレートにズバリおっしゃいますね。やりやすいですけどね。
緑:
ご家族の方々は?
大使:
家内がこちらにいっしょにいてくれます。家内とはまあ、、、たいがい、いっし ょにいます(笑)。
>ごちそうさまです。(編集)
でも、これからだんだん日が短くなってきた時に、どういう生活になるのかまだわからないところがあります。
緑:
確かにございますね。(笑)
大使:
それはやはり、日が長いといろいろと行動半径も広がる訳で、日が短くて風が吹いて、となると、どういう生活になるかわからないですね。まあ、とにかくイランとかカンボジアとか、非常に不便な生活をしても、それ自身楽しい思い出が残っていますから、ましてこの国において、これだけ便利な国で文句の有り様がないと思っています。
緑:
いろいろといいお話をしていただきましたし、おもしろいお話も聞かせていただきました。これからデンマークにご滞在中にいろいろ果たしていただくお役割も大きいかと思います。こちらに住む日本人、そして日本人会に対しても、お心づかいいただけるということで、そのご期待にお応えできるような、日本人会の活動を進めて行きたいと思いますので、今後ともよろしくお願いいたします。
ほんとうに今日はお時間をいただきまして、ありがとうございました。